【第20回】
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特別受益生前贈与
亡くなった父は生前、兄に多額のお金をあげていました。遺産を均等に分けるのは不公平ではありませんか?
父が亡くなりました。母は既に他界しており、兄、私、妹が遺産を相続することになりました。父は遺言書を残していません。 父は生前、兄に多額のお金をあげていましたが、遺産は法定相続分のとおりに分割するのでしょうか。 |
相続開始時の財産が、6000万円の預金だけという場合、長男、長女、二女の法定相続分は、3分の1ずつということになり、原則として、長男、長女、二女は、預金を2000万円ずつ相続することになります。
ここで仮に、長男だけが、父親から1500万円の生前贈与を受けていたとします。
このような場合について、民法903条1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、民法900条から902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定しています。これは特別受益と呼ばれています。
長男に対する1500万円の生前贈与が特別受益に当たるとすると、相続財産は、6000万円+1500万円=7500万円となり、1人当たりの相続分は、7500万円÷3人=2500万円になります。そして、長男は、この2500万円から生前贈与を受けていた1500万円を控除した1000万円しか相続できないことになります。他方、長女と二女は、2500万円ずつを相続することになります。
もっとも、父親が、相続分の前渡しという趣旨ではなく、相続分以上の利益を与える趣旨で、長男に対し、1500万円を生前贈与したときは、この1500万円の贈与は、特別受益として考慮されないことになります。例えば、長男が、父親との同居を目的として自宅を購入する際に、父親が長男に対し、1500万円を贈与したという場合などです。このような場合、原則に戻って、長男、長女、二女は、預金を2000万円ずつ相続することになります。